TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)の結果が発表

TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)の結果が 発表

「国際数学・理科教育動向調査」の2011年の調査結果(TIMSS2011)が発表されました。既にマスコミでも概要が報道されていますので、ご存知の方もいらっしゃることでしょう。この調査は、国際教育到達度評価学会(IEA・本部アムステルダム)が実施するもので、日本では国立教育政策研究所が国際的なルールに従って国内で実施しています。今回の結果は2011年3月に実施されたもので、4年に1回の実施です。対象は小4と中2で、科目は算数・数学と理科です。

なお、このような国際的な学力調査にはPISA(OECD生徒の学習到達度調査)があります。PISAは高校1年生を対象とし、現代社会や今後予想される社会に必要な力量を、学力の観点から測定するものなのに対し、TIMSSは現在定められている教育課程での到達度を測定するものです。よく、「PISAは記述、表現、思考力重視、TIMSSは知識重視で教科書型」という意見がありますが、PISAでも記号選択問題は出題されますし、TIMSSにも論述問題はあります。

1. 調査の概要

 この調査の目的は、初等中等教育段階での児童生徒の算数・数学、理科の教育到達度(educational achievement)を国際的な尺度によって測定し、児童生徒の学習環境条件等の諸要因と到達度との関係を参加国/地域間におけるそれらの違いを利用して組織的に研究することです。
今回は国際的な動向調査として、次の事項を目的として実施されました。

① 小4については1995年、03年、07年、2011年の同学年の比較を行うこと。

② 中2については1995年、99年、03年、07年、2011年の同学年の比較を行うこと。

③ 07年の小4と2011年の中2とで4年間に得点や態度などがどのように変化しているか調べること。

④ 小4・中2の今回の結果で国際比較を行うこと。

 日本のマスコミ報道はもっぱら④に偏っていますが、①~③も目的です。
調査対象の児童生徒の抽出は、第1段階として、全国の全ての小・中学校を都市・町村等の地域類型によって層化し(中学校の場合は国立・私立学校も1つの層として分類)、そこから各層の児童生徒数に比例するように学校をランダムに抽出します。次に第2段階として抽出された学校の中の1クラスの児童生徒を選ぶ方法で実施されました。国際的に決められたガイドラインに従って、各国/地域の児童生徒の状況の縮図が描けるように、との配慮です。

 同一問題での経年比較も行なうことから、小4・中2とも14種類ずつの問題用紙冊子が準備され、児童生徒ごとにこのうちの1種類が指定されて実施されました。1人の児童生徒が解く問題量は冊子によって異なりますが、概ね小4が制限時間72分で50題、中2は90分で60題程度です。この他、児童生徒と教員双方にアンケートが実施されました。

2. 参加国/地域

 経年による比較ができない新規参加も含め、オーストラリア、イングランド、香港、ハンガリー、インドネシア、イラン、イスラエル、イタリア、日本、韓国、リトアニア、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ルーマニア、ロシア、シンガポール、スロベニア、アメリカ、アルメニア、オーストリア、バーレーン、ボツワナ、台湾、チェコ、デンマーク、グルジア、ドイツ、ガーナ、ヨルダン、カザフスタン、クウェート、レバノン、マレーシア、モロッコ、オマーン、パレスチナ、カタール、サウジアラビア、スロバキア、スウェーデン、シリア、タイ、チュニジア、トルコ、ウクライナ、イエメン、アゼルバイジャン、ベルギー(フラマン語圏)、チリ、クロアチア、フィンランド、アイルランド、マケドニア、北アイルランド、ポーランド、ポルトガル、スペイン、アラブ首長国連邦、ホンジュラス、南アフリカの61カ国/地域が参加しました。参加総数は児童生徒数53万人、日本では小4・中2各4、400名あまりです。

3. 平均得点について

得点は統計的に処理を行い、全体の平均点が500点、標準偏差100点となるように調整されました。受験者の三分の二が400~600点に入る調整方法です。上の表は今回の国/地域別平均得点の結果です。得点が同じ場合、標準誤差の小さい方が上の順位です。小4の算数、理科、中2の数学、理科とも世界のトップ5の中に日本は入っています
 次のページのグラフは平均得点の推移です。99年は小4が実施されていません。小4の理科は95年→03年で大きく下がっています。また、中2の数学も99年→03年で大きく下がっていて、当時マスコミで学力低下報道がなされましたが、今回は小4の算数と理科が前回に比べて目だって上昇しています。学習指導要領が変わって、「ゆとり教育路線」から決別したこともあり、小4については早速効果が出ている、といったマスコミ報道もあったようです。



4. 成績上位生の比率について

児童生徒の得点別について、625点、550点、475点の3区分でそれぞれの人数の割合を集計します。625点以上は「より高度な水準(推論ができる)」、550~624点は「高い水準(複雑な応用ができる)」、475~549点は「中程度(簡単な応用ができる)」、474点以下は「低い水準まで」と位置づけます。実際のTIMSS報告書は474~400点を「低い水準」、400点未満はそこにも達していない、と区分していますが、平均得点が上位の国/地域ではほとんどごく僅かのため、ここでは一括して474点以下を取り扱います。

上のグラフは小4算数で625点以上の割合が多い10カ国です。前ページの平均得点の上位の国/地域とほとんど同じですが、「平均得点は高くても上位生の割合が少ない」といったケースもあるため、全く同じ、というわけではありません。日本では約四分の一が「より高度な水準」ですがシンガポールや韓国では4割が「より高度な水準」です。韓国や香港は「低い水準まで」が極めて少ないことが注目です。

上のグラフは小4理科ですが、全体的に算数よりも成績上位生の比率は少なくなっています。日本は平均得点では4位でしたが、こちらでは7位です。「より高度な水準」の人数が少なく、「高い水準」と「中程度」の人数が多いためです。成績上位生は少ないが、平均してそこそこできる、という状況です。逆に平均得点で7位のアメリカが6位です。「より高度な水準」が日本よりやや多いため、日本よりも上位ですが、「低い水準まで」の人数も多いため、平均得点では日本の下に来ます。上下差が日本よりも大きくなっています。

上のグラフは中2の数学です。台湾、シンガポール、韓国の「より高度な水準」はいずれも4割を超えています。シンガポールと韓国は「低い水準まで」の割合も低く、全体に高水準です。台湾、シンガポール、韓国は別格的で、香港、日本、ロシアが中間的な水準、イスラエル以下があまり変わらない水準で続いています。

最後は中2の理科です。シンガポールが突出して高成績で、「より高度な水準」は4割に達しています。また、シンガポール、台湾、韓国、日本は「低い水準まで」の割合がほぼ同じですから成績上位生の割合が順位を決めています。その中で、フィンランドが他国よりも「より高度な水準」ではあまり差が出ないものの、全体に高水準です。

5. 教科に対する意識について

表は小4の児童に対して実施したアンケートの抜粋です。算数と理科について、それぞれ好きか、勉強が楽しいかの質問に対して、強くそう思う(=表中強いYES)、そう思う(=表中YES)と答えた割合です。表に取り上げた各国は平均得点が上位の国ですが、算数については「好き」も「勉強が楽しい」も「強くそう思う」「そう思う」の合計が国際平均に届いていません。世界の国々の中には平均得点がこれらの国のレベルに達していなくても算数が「好き」、「勉強は楽しい」と答えている児童が多いことになります。理科でも「好き」については国際平均並みのシンガポールを除いて同様ですが、「勉強は楽しい」についてはフィンランドと韓国は低いもののアメリカは平均並み、他国は平均を上回っています。

また、算数は2つの質問とも日本、韓国、フィンランドが「強くそう思う」「そう思う」の合計が表の各国の中でも特に低い傾向にあり、日本・韓国の算数の「好き」、日韓両国とフィンランドの「勉強が楽しい」は、「強くそう思う」が少なく、「そう思う」が多くなっていて、他国とははっきり異なっています。理科でも韓国とフィンランドの「好き」、フィンランドの「勉強が楽しい」は比較的「強くそう思う」「そう思う」の合計が低い傾向にありますが、この点では日本は異なっています。また、韓国とフィンランドは理科の「好き」も「勉強が楽しい」も、それぞれ「強くそう思う」と「そう思う」の差があまり大きくありません。日本はどちらの質問も「強くそう思う」が「そう思う」をかなり上回っています。

 算数では比較的意識が近かった日本、韓国、フィンランドですが、理科では異なっています。このことは、日本では児童にとって算数をもっと楽しく、好きになる工夫が足りていないことになります。トレーニングのイメージが強いのでしょう。

グラフは自信があるかどうかの問いで、算数も理科も日本、韓国の「自信あり」の少なさ、日韓とシンガポールの「自信なし」の多さが目立ちます。ある国で「やや自信あり」と答えた児童の平均得点が他国では「自信あり」と答えている児童の平均得点とほぼ同じ、というケースもあって、どのレベルまでの習熟を児童に求めるかで各国の考え方の違いが表れています。

 中2でも同様に見ていきます。次の表です。なお、理科にフィンランドが出てきませんが、同国では中学から理科が物化生地に分かれるため、比較できず、外しています。

 

数学も理科も、「好き」と「勉強が楽しい」のそれぞれについて、「強くそう思う」「そう思う」の合計はシンガポールを除いて各国とも国際平均に届いていません。小4同様、世界の国々の中には平均得点が上位得点のこれらの国のレベルに達していなくても数学や理科を「好き」、「勉強は楽しい」と答えている生徒が多いことになります。シンガポールの国際平均を上回る高さは、同国が国をあげて理数教育に力を入れている証拠でしょう。

 数学では日本、フィンランド、韓国が2つの質問とも、小4同様「強くそう思う」「そう思う」の合計が表の各国の中でも特に低い傾向にあり、どちらも「強くそう思う」の回答が少ないことが原因です。日本と韓国の理科も同様の傾向です。全体的に「強くそう思う」「そう思う」の合計は小4よりも低い水準ですが、国別の事情はあまり変わっていないようです。

 自信の有無については、日韓の自信のなさが際立っています。数学も理科も日本が「自信がない」の割合がトップです。小4同様、どのレベルまでの習熟を児童に求めるかで各国の考え方の違いが表れていますが、日本では前ページの表で、理科については6割以上が「勉強が楽しい」について、「強くそう思う」「そう思う」と答えていたにもかかわらず、自信あり、ややありと答えた合計は31%です。「勉強が楽しい」が「自信」につながっていません。「好き」も同様です。こうした回答を、「国民性」と考える見方もあると思いますが、小4の理科では自信あり、ややありを合わせると6割を超えているのが中2では半分になるわけですから、成績を気にするようになる、受験が近づく、といった外的環境や、勉強よりも部活といった生徒本人の関心のあり方の変化が影響していると考えられます。算数・数学も自信あり、ややありの数値は異なりますが同じ傾向です。

6. 将来の展望


今度は中2だけのアンケートの抜粋です。数学と理科について、それぞれ「将来その教科を使うことを含む職業につきたいか」、「自分の就きたい職業には、その教科の高成績が必要か」について、強くそう思う(=表中強いYES)、そう思う(=表中YES)と答えた割合です。フィンランドの理科は前述の理由で外しています。まず、シンガポールが数学・理科それぞれ2つの質問に対して、「強くそう思う」「そう思う」の合計が国際平均を上回りました。前項のように国をあげて理数教育に取り組んでいるからでしょう。

他の国はいずれも国際平均に届いていませんが、日本、韓国、数学のみですがフィンランドが低水準で、前項の表と似た傾向になっています。特に日本は数学・理科のそれぞれ2つの質問に対して「強くそう思う」「そう思う」の合計が各国の中では一番低く、理数系への関心の薄さを表しています。数学や理科を使う職業に就きたいとは思わない、希望する職業に就くために数学や理科で高成績をとることが必要だとは思わない、ということです。それでも数学については、必要性の質問で「強くそう思う」と「そう思う」の合計が6割を超えていますから、重要性は何となくわかっている、ということでしょう。

 TIMSSはPISAとは異なって、比較的知識や技能面を重視した出題が中心です。世界で4位とか5位とかの位置についてはいろいろなご意見があるかと思いますが、世界的には上位の教育水準にあることは間違いないでしょう。

しかし、児童・生徒の意識の面ではどうでしょうか。学年が上がると内容が難化しますから、算数・数学にせよ理科にせよ「授業が楽しい」「その教科が好き」が減ることは致し方ない面はありますが、日本の「授業が楽しい」「その教科が好き」の水準は低く、「テストに出るから」「勉強しなければならないから」といった後ろ向きの姿勢で理数系教科を捉えていることが今回の結果からうかがえます。こうした意識で教科を捉えているからこそ、将来の職業選択においても理数系志向が低くなっているのでしょう。

 産業界などから理数系人材の強化が求められ、スーパー・サイエンス・ハイスクールやサイエンス・パートナーシップなどの取り組みが行なわれていますが、広く全体に理数系志向が広まる段階までは達していません。高校生になってから、一部の生徒にこうした取り組みを体験させることは重要ですが、もっと裾野を広げていくことが大切だと感じます。その第一歩は学校の授業であり、また塾等でも、ノウハウの叩き込みばかりに走らず、理科や数学の面白さに触れるような授業展開を心がけないと、いつまでも状況は改善されないのではないでしょうか。