埼玉県で公立高校入試の得点を出身中学に送付

埼玉県で公立高校入試の得点を出身中学に送付

 埼玉県では公立高校入試の得点を、今春から受験生の出身公立中学校に送付しています。

県教委に確認したところ、「本来は公立中学校の卒業式までに間に合わせたいがなかなか難しい、特に公立高校入試でがんばった生徒を各中学が卒業式でほめられるようにしてあげたい、ただ、それが無理でも後輩のために役立つ資料になる」とのことです。ここで注目なのは、「後輩の役に立つ」という部分で、要するに次年度に向けての進学指導の資料にする、ということです。

 公立高校入試で何点とったら合格か、進学指導に従事する担当者は昔から頭を悩ませていました。公立高校の場合、文部科学省通達で合格最低点は公表しないことになっているためです。

公立高校入試の学力検査問題は翌日の新聞に掲載されますので、学校で、あるいは塾で、自己採点行なわれ、その集計から推測する方法が古くから行なわれてきましたが、この10年ほどは希望する受験生本人に対して合格発表後に提示する「簡易開示」が広がってきました。

簡易開示結果を集計することで、自己採点にありがちな誤差を減らすことができるようになってきました。今回の埼玉県の施策は、それを一歩進めて、公立中学校に対しては各高校側から送付して簡易開示の手間を省こうとするものです。

 公立高校の学力検査得点は言うまでもなく個人情報です。ただ、ここでは個人情報の取り扱いの面で問題がないかどうかは論じません。むしろこの施策の裏にあるものを考えてみましょう。

 ご存知のように、埼玉県は全国に先駆けて「脱偏差値」をうたい、92年に公立中学校での業者による学力テストを追放しましたが、そのため公立中学校の進路指導力量は低下、塾が進路指導の実権を握ることになりました。

その時代が長く続いたのですが、公立中学校が生徒の進路についての責任を負わないことに保護者の不満は高まり、特に他都県からの転入してきた保護者の中には「○○県ではしっかり指導してくれるのに」といった苦情が寄せられるようになっていました。

こうした状況に対して、埼玉県教委では公立中学校の信頼回復の一環として、「公的テスト(校長会実施の学力テスト)」を実施して、校長会による学力テストを復活させました。本年までに県内ほぼ全域でテストが行なわれるようになっています。ところがテストをして結果を見ただけでは進路指導な活用できません。入試結果と照合したデータを蓄積することが必要です。これには数年かかります。そこで、公立中学校の進路指導力を早く立ち上げるための第二の施策として実施されたのが、得点の送付でしょう。

神奈川県、千葉県、茨城県、栃木県、群馬県では公立高校に得点の一覧を送るなどは実施されていません。神奈川県と茨城県は来春から公立高校入試制度が大きく変わりますが、「現在のところ新制度でも得点を公立中学に送付する予定はない」とのことでした。

 東京都は以前から公立中学校に得点のリストを送っています。これは得点の簡易開示のためです。東京都の得点の簡易開示は、高校ではなく出身中学校で行なわれるため、送付されているわけです。東京都教育委員会に問い合わせたところ、「他の目的に使用することは都教委として想定していない、ルール違反なので後輩の進路指導に活用するなどは行なっていないのではないか」とのことでした。